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ZOO AQUA STORY☆ by つまき♪
第27回 札幌市円山動物園 「本気のこれまでとこれから
⑤猛禽類さんの福祉向上の取り組み♪

<はじめに>

筆者は、猛禽類さんのフライトショーに懸念を持っています。人気イベントとして安易に広まっていますが、猛禽類さんに、「係留」と「飢え」という負担をかけるからです。「係留」は、短いヒモでつなぎっぱなしにすることです。「飢え」は最近はあまり使わない手法だそうですが、「加減を間違えて餓死させた」という話を聞いたこともあります(食べ物で誘導して飛んでもらうためなどの理由で厳しい食事制限をします)。

海外では改善が進んでおり(ドイツのケルン動物園で教えて頂きました)、円山動物園の本田直也さんも本気で負担軽減に取り組んでおられると伺い、勉強をさせて頂きました。ですのでここでは、勉強した内容を紹介します。

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 まずは円山動物園が猛禽類さんの飼育やフリーフライトを行っている理由ですが、「保護された猛禽類さんの野生復帰訓練のため」です。飛ぶ・食べ物を得るなどのトレーニングなしでは、野生に戻してもまず生きられないそうです。

 また、野生に戻せない状態ということで園で暮らして頂く猛禽類さんもいます。さらにその猛禽類さんから生まれた方々は、法的なこともあり簡単には野外に放すことはできません。

 こうした猛禽類さんに協力して頂いて、各種トレーニングの技術や生態の知識を動物専門員さんたちが体得する・磨くという意義もあります。

 猛禽類さんが手元に来ることで、猛禽類さんの本質や飼育方法など多くのことを知ることができるとのこと。そこから飼育環境も作れるので、飼育員さん(動物専門員さん)に体得してほしいスキルだそうです。

 そしてフリーフライト(写真)は人気なので、猛禽類さんの「本来の習性・性質・フリーフライト技術とその必要性」などについて来園者に伝えることができます。

​ 本田さんは鷹匠の技術も学んでいたので、保護された猛禽類さんが園に来たとき以来、フリーフライトなど各種技術や知識の研鑽に励んでおられます。

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 写真のように、フリーフライトで猛禽類さんが近くや大空をを飛ぶ姿は、もちろん非常に魅力的です。だからこそ、その魅力の引力にただ流されるのではなく理性を発揮して、その裏側にある現実に目を向け、猛禽類さんの負担軽減に正面から取り組み続けたいです。

 日本でフリーフライトをしたい場合に必要なことは、「正しい選択(猛禽類さんの種類)と正しい技術」だそうです。

 「日本在来の猛禽類さんの、野生復帰スキル向上」を前提にすべきとのこと。

 例えばトビさん(写真。上の写真も)・エゾフクロウさん・ユーラシアワシミミズクさん(北海道にも在住)などが該当します。

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 「係留」の一例です。様々な理由があって係留をしますが(これから説明しますが)、やはりどんな命も、「短いヒモでつなぎっぱなし」にされる時間などないに越したことはないと筆者は考えます。本田さんも、「ただつないで並べているのは大反対」とのお考えです。つなぎ方が悪いと事故にもつながるとのこと。

 「フリーフライトのステージと小屋がつながっている」と、「係留しない」「足ヒモも付けない」が可能になります。

 「小屋」はトレーニング中の猛禽類さんが普段過ごす場所です。ケルン動物園もそういう構造にしてありました。「小屋から出てきて、ステージに食事に行く」というパターン化をすると、負担軽減ができるそうです。この方式ですと、フライトによく使われるハリスホークさんも、足ヒモが不要になるとのこと。

 トビさんは、トレーニング初期と外に出すときにつなぎます。理由は、トレーニングを受ける猛禽類さんは代謝がアップしていてアグレッシブになっており、飛び回ってケガをしてしまうからだそうです。

 円山動物園のトビさんも、人が来ると飛びかかってきて小屋の壁にぶつかってしまいます。その対策として、「外が見えないようにする」「外でフライトと食事をする」という案があります。

 また、係留もナシにできますが、いろいろとクリアすべき条件があるので、「しっかりした人に助言をもらうこと」「その猛禽類さんの由来や個性を把握すること」がまず大事と本田さんはおっしゃいます。これだけの知識・経験・スキル・本気度をお持ちの本田さんが他園館のフライトにもアドバイスをして下さるそうですので、頼らせて頂いて、皆で猛禽類さんの負担軽減に取り組んで頂きたいと思います。

 これまでに紹介した要素を総合すると、フクロウさんのほうが「つながないでOK」の可能性が高いとのこと。写真のユーラシアワシミミズクさんを係留している理由は、小屋に入ったときに飛びかかってくるため。なので、「小屋に人が入らずにフクロウさんが窓から出てくる形にすれば、係留しないで済むかも」「猛禽類さんについてちゃんと知っている人ならできる」そうです。

 とにかく、係留をなくすには、「小屋とステージがつながっていること」+「猛禽類さん1名ずつの状況次第」。そして

「猛禽類さん1名あたりのスペースも基準化して確保すべき」。「フライトがしたければ、法律的・世論的に”こうしたことをクリアする必要があります”にする!」「理想が常に頭にないと!今はフライトをする基準が低すぎる」という本田さんのご意見、現場で長年本気で取り組んでこられた方のお考えですので、重いものがあると思います。

 ちなみに円山動物園のユーラシアワシミミズクさんは、年中係留しっぱなしという訳ではなく、このトレーニング小屋で換羽をするときは「止まり木を設置し、係留しない」と、細やかに対応しています。

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 これが、フライトに出る=トレーニング中の猛禽類さんの小屋です。1棟に1名います。1名あたり2~3坪の広さ。光と風が入りますが、暑さ対策として光をふさぐこともあります。

 フライトに出る=トレーニングは3~4ヵ月で交代。換羽時期にはより広い換羽小屋に引越すこともありますが、この小屋でも換羽可能です。

​ 猛禽類さんたちの健康管理もできる場所となっています。

​ フライトをしたいなら、こうした居場所の確保を求めたいとのことです。

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 フリーフライト中のトビさん。くどいようですがこの魅力に人間は負けがちです。しかしながら、どうして飛んでくれているのかご存知ですか?好奇心で反応してくれる場合もあるインコさんたちとは違い、猛禽類さんは「食べ物」ただその一点です。ですので、「飢えさせる」という手段も実在するほどの、こまかい食事のコントロール下におかれます。ちなみに、動物福祉の意識が非常に高いドイツの、ケルン動物園のフライトショー担当飼育員さんは、「絶対に飢えさせていない!そんなことはしてはいけないんだ!」と繰り返し力説されていました(そしてもちろん、猛禽類さんたちは小屋で係留されずに過ごしています。足ヒモが付いている方も1名だけでした)。

 ということで、フリーフライトをする猛禽類さんの食事について。まず、その猛禽類さんの「体重100%」を算出します。野生ではあり得ないデブで、非現実的とのこと。そしてフライトに出る=トレーニング中の猛禽類さんは「体重70~80%」の状態にします。野生では70%前後で生活していると考えられています。しかしながら、70%まで下げないとフライトで飛んでもらえない種類は向いていません。負担をかけてしまいますし、スキルが必要だからだそうです。

 例えば、園ではなく本田さんのオオタカさんは、85~90%でフライトで飛んでいます。しかしながらこれは、あくまでも本田さんの事例とのこと。事前の完璧な社会化を達成できた個体に限ってはオオタカさんでも高い体重割合でも可能というだけで、なかなかそうは行かない場合がほとんどだそうです。「トレーニングは事前準備が8割」と、本田さんは伝えています。このように、事前に社会化を徹底的に行うことが重要なのですが、それについては後述します。

 そして現在、園のトビさんは100%に近い状況で飛んでいるそうです。新人さんがすごいそうですが、先輩たちのアドバイスの賜物でもあると思います。「100%は野生ではあり得ないデブ」と前述しましたが、本田さんの説明は次の通りです。

 <本田さんの説明>『同じ100%体重でも、「筋肉大・脂肪小の状態と、筋肉小・脂肪大の状態」があり、後者がただのデブです。社会化をクリアした上で、運動量と代謝を管理し、「筋肉大・脂肪小・代謝高」の状態にしていきます。この状態ですと、飢えているのではなく、食べても食べても腹一杯にならないという感じです。限度はありますが、当然給餌量も増加しないとどんどん痩せていきます。一般的に動物園などでトレーニングされている鳥は圧倒的に事前の社会化が十分ではなく、しかも運動量が少なく、代謝管理も足りないです。だから体重をより下げる事、つまり飢えさせることで社会化(飢えると視野が狭くなり周囲の刺激に鈍感になります、つまり慣れているように見えるということ)をクリアし、一定の飛行を行なっているわけです。』

 厳しく食事制限をするばかりでなく、猛禽類さんが満腹でも、別腹で好きな食べ物が入るなら食べていいそうです(量は注意)。ただ、実は満腹も良くないとのこと。また、園館生活で運動量が非常に少ない上に食べ物の栄養価が高いため、食事の残りが出るほど用意するのはNG。

 トレーニングに際しては、通常の食べ物が強化子(報酬)になるのがベスト。また、飛んでもらうために飢えさせるのではなく、「少し空腹」の状態にするのがいいそうです。

 ただし、野生のリハビリの際には食事制限がシビアなことも。なぜなら、「帰すためには筋力の回復が必要→そのために最低限のトレーニングが必要→人間を許容してもらう必要がある→最初ガッと飢えさせる→食べ物をくれる人間を許容する」という展開だからです。このやり方なら、短期間で野生復帰ができるというメリットを考えた上で採用している方法です。

​ また、治療の脱感作のために飢えさせるのは、度合いの問題とのこと。満腹だとやはり動いてもらえないので、強化子を有効にするために、少し空腹にすることはあるそうです。

 ちなみに注意点は体重だけではなく、例えば円山動物園のトビさんは、「体重の下限+肝臓の数値」を測って管理しています。

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​魅力全開のユーラシアワシミミズクさん

 猛禽類さんの動物福祉向上に大事な、「社会化」=人間社会で過ごすことに慣れてもらう取り組みについてです。猛禽類さんにとって、最高のご褒美は「目の前から人間が消えること」。例えば、オオタカさんの場合は、ケガ防止のために(人間がイヤで飛び回るのを防ぐために)、真っ暗な中で社会化を開始。「気づいたら人間の手の上にいるし?!」という展開になるよう、「それくらい気を遣う」そうです。

 猛禽類さんはそれほど人間が苦手なので、「どう関わるかが大事」。そして「成鳥は基本的に無理」。幼鳥を「どういう育て方をするか」からが重要で、その時期にしかできない「社会化」が大事になってきます。

 社会化をしないと、猛禽類さんは園館暮らしという状況の訳が分からず、負担が非常に大きいとのこと。ですので例えばビリーさん(保護されたトビさん)は、ヒナのうちから遊園地など賑やかな場所でごはんを食べたりして育てたそうです。そうすることで、ビリーさんがストレスに感じるものが全くなくなるようにします。なにせ毎日一生、園館で人間や人工物に囲まれて過ごすので、それらに慣れることがストレス軽減になるのです。

​ 「小屋に入れっぱなしにすること=大事にしている」では、ないとのこと。小屋に入れっぱなしにすると外がますます怖くなって動かないため、飢えさせて動かすことにつながってしまいます。事前の準備が重要で、それをしていれば、フライトの負担も相当軽減できますし、ヤル気も出るかもしれないそうです。

 フライトも、トレーニングも、社会化も、猛禽類さんの個性による向き不向きが非常に大きくあるとのこと。きょうだいでも、おっとりしているタイプと非常に繊細なタイプがいたり。野生由来の猛禽類さんで、人間が来るたび飛んで壁などにぶつかってしまうタイプは向きません。園内で生まれた猛禽類さんのほうが向いているそうです。向かない場合は、猛禽舎で暮らすという選択肢も、円山動物園ではあります。

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 フリーフライトの様子(開催については園のHP「ドキドキ体験」にて確認してください)。

 写真のクラッチさん(トビさん)は瀕死の状態で保護されました。人が治療に大きく関わったために刷り込みが発生した可能性があり、トビさんとしての自己認識に不安が残るため、教育担当(フライト担当)になって頂きました。

 フリーフライトの間、クラッチさんはかなり自由に遠くまで飛んだり戻ってきたりします。クラッチさんにとっては「狩りがスタートした」という認識だそうです。トレーニングにより、飼育員さんの手の上が「最高の狩り場」と認識しています。さらに、「遠くまで飛ぶほど食べ物が得られる」ということも覚えているため、飛ぶ(=筋力などを使う)時間が長いです。

 動物専門員さんが手で持っているお肉ではなく、ルアーに向かう場面もあります。ルアーに行くようにするためには、絶食後にルアーを見せるそうです。

​ フリーフライトでは、動物専門員さんが意義(野生復帰)や、猛禽類さんの生態についても解説。トビさんは人間の8倍以上の視力があり、東京タワーから「地面の5百円玉が見える」!

 フリーフライトの後は、猛禽類さんの精神的なケアもします(動物専門員さんの緊張が移った時など)。また、一年中フライトを担当するのではなく、換羽の時期などは休みます。クラッチさんも、この日で出番はいったん終了し、別の場所にある広めのお宅に移ります。

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 フライト後の水浴び(霧吹き)。猛禽類さんも水浴びが必須です。小屋内で係留している場合は、溺死事故の可能性があるためプール(水浴び場)が用意できず、霧吹きでの水浴びになるとのこと。

 雨風にも当たったほうがいいので、屋外生活がオススメ(雨風に当たらない場所を作った上で)。

 とは言え冬は、羽が凍ってしまうので霧吹きはしません。四季で管理の仕方が全く違うそうです。トレーニング中も、雨に当たると体重が減ったりするので当たらないようにします。

 このように、円山動物園の猛禽類さん担当の動物専門員さんたちは、細やかなケアに熱く取り組みつつ、さらなる改善・工夫の余地に向き合っています。

​ 写真の佐藤さんの熱意・誠実さ・行動力にも感服するばかりで、期待が膨らむ一方です。

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 フライト→水浴び(霧吹き)→水を飲む・・・がセットになっています。フライト担当中の猛禽類さんは、小屋で係留するため、自由に動けません。そのことによる溺死事故の可能性をゼロにするため、飲み水も設置しません。

 基本的に「水を飲む」というより「食べ物から水分摂取する」そうですが、飲み水をあげれば飲むとのこと。

 筆者は、どんな命も、しかも園館という人の手の中にある動物さんたちは特に、自分の意思とタイミングで清潔な水が十分に飲める状況にあってほしいので、動物専門員さんたちの今後の取り組みを応援させて頂きたいです。

 係留をしなければ、小屋の中に水浴び場を用意することも可能だそうです。

 そしてもちろん、円山動物園の猛禽類さん担当の動物専門員さんたちは、恐らく日本一本気でケアに取り組んでいるので、例えば「羽が1枚も抜けていない」のです。フライト担当の猛禽類さんは、尾羽がぐちゃぐちゃになるケースもあるとのこと。写真のクラッチさんの美しさには、根拠があるのです。

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 どうしてもフライトを実施したい場合に、向いている猛禽類さんの1種が、フクロウさんです(写真はユーラシアワシミミズクさん)。

 円山動物園では、保護→繁殖→フライトと、5年をかけてフライトまでもっていきました。

 フクロウさんが「ごはんの時間にごはんの場所に飛んで行く」というパターン化をすることにより、飛ぶ行動を引き出しています。ですので、フクロウさんにとっては「毎日のごはんを食べに行っている」だけで、負担が少ないです。

 フクロウさんが飛んで行きたくなるタイミングを観察し、それに合わせて食べ物を見せて笛を吹く・・・というトレーニングです。もちろん、食べ物の量は細かく相談をして決めています。

 またフクロウさんは人間のこぶしのような不安定な場所が嫌いなので、基本的には止まり木の間だけを飛ぶように工夫しています。

 フクロウさんはフライトの負担軽減ができますし、せっかく円山動物園で繁殖と社会化などに取り組んでいるので、その技術ごと、他園館にもっと活用して欲しいそうですが(どうしてもフライトを実施する場合)、安易に海外の猛禽類さんを導入する流れがあり、歯がゆいそうです。どうしてもフライトを始めたい、または既に実施していて改善をしたい園館は、ぜひ一度本田さんに相談を。

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 円山動物園では、猛禽類さんの保全にも取り組んでおり、非公開施設もあります。写真は、オオワシさんのペアの様子を監視カメラで確認している本田さんです。

​ 本田さんは、いつの日か、オオワシさんたちをシベリアに帰したいと考えています。

 このように、今回、長いこと懸念を持ち続けてきたフリーフライト(分かりやすく言うと「フライトショー」)について、様々な学びを得ることができました。もちろん、フライトの取り組みのほんの一部を垣間見ただけではありますが、現在の認識を書いてみます。

 ・野生復帰にはフライトの技術が必要(=日本の猛禽類さんで実施すると、意義がよりある)

 ・フライトに出る猛禽類さんは小屋暮らしになる(=係留・飲み水なし・水浴び場なし・雨風なし)

 ・小屋暮らしでも、係留なし(=飲み水と水浴び場あり)にすることも可能

 ・フライトに向いている種類や個性がある+社会化が必要

​ ・正しい技術が必要

 ・飢えさせるという負担をかけないでもフライトはできる

 ・一年中フライト担当(=小屋暮らし)なわけではない

 ・以上のことを実践し続けられるだけの本気度が必須

 ということで、せっかく日本一の本気度で知見を積み重ねてきた本田さんがなんでも教えて下さる前向きさでいて下さっているのですから、まずはぜひ現場に勉強に行ってみてほしいです。そして、本気で取り組むのか撤退するのか、いずれにしても前向きな姿勢として、アピールすることをオススメします。園館のお客さんである方々も、ぜひいろいろな知識と視点で、猛禽類さんたちと飼育員さん(動物専門員さん)たちを応援してください。筆者も、勉強と応援を続けたいと思います。

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