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ZOO AQUA STORY☆ by つまき♪
第27回 札幌市円山動物園 「本気のこれまでとこれから
①両生類爬虫類さんの福祉向上の取り組み・1「環境づくりとケア」

 2019年3月18日の飼育技術学会大会にて、札幌市円山動物園(北海道)・本田直也さんのご講演を拝聴、取り組みの本気度とレベルの高さに心底驚き、すぐに取材申請をさせて頂きました。4月中旬の3日間、現地で取材と見学をさせて頂き、本田さんのような飼育員さんたちだけでなく、円山動物園と札幌市も本気で変革や動物福祉向上に意識を向けていることを実感しました。大型の園館としては日本初の本気の変革が始まったと感じています。それを実現できた「これまで」の地道で本気な努力(園内外での)に心底感服するとともに、「これから」に期待が膨らむばかりです。執筆者の事情により取材日から数ヵ月が経過してしまいましたので、9月中旬に追加取材をさせて頂きました。ということで今回ご紹介する内容は、写真は2019年4月中旬と9月中旬のもの、取り組みは9月中旬時点のものであることを先に明記いたします。校正時(最終2020.1)の追加情報が加味されているところもあります。 2020.1.15  up (全15ページ)

 まずは本田直也さんが専門のひとつとされている、両生類爬虫類さんに関する取り組みをご紹介します。

本田さんは、子どもの頃から両生類爬虫類さんに関する学びと経験を積み重ねてきました。飼育員さんになってからも、何十年にもわたり、借金をしてまで、学びと経験を深め続けています。その結果、両生類爬虫類さんに関する日本の拠点となっている方です。さらに、両生類爬虫類さんだけでなく猛禽類さんなど動物さんに関する知識と経験が突出しているだけでなく、環境づくり(植物・温度や湿度・床材・設備・設計・建築素材などなど)の知識も広く深く持っていることで有名です。その上、日本の園館変革にも熱く取り組んでいることから、各地の飼育員さんたちに最も尊敬される飼育員さんの一人でもあります。

​ その知識とスキルと取り組みの全てはとても紹介しきれませんが、本気の取り組みとはどういうものか、一端だけでもご紹介できればと思います。あまりに取り組みが多いので、p.1では環境づくり(植物・雨・施設・温度)とケア(食べ物その他)の概要についてご紹介。p.2以降で、個別の取り組みをお伝えする構成となっています。

​ p.1~3の、両生類爬虫類さんの福祉向上に関するご紹介の場所はすべて、「は虫類・両生類館」です。

 なお、円山動物園では飼育員さんを「動物専門員」と捉え直して、変革に取り組んでいます。大賛成の取り組みですので、記事内でもそのように表記します。

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 まずは植物★動物さんの福祉向上に直結する最重要要素のひとつです。

 本田さんは、動物さんの環境づくりにあたり、「基準を植物に合わせる」そうです。なぜなら、「植物は要求度が高い」、つまり適正な環境じゃないとすぐに枯れるからです。

 写真はエゾアカガエルさんとニホンアマガエルさん宅ですが、シダが一番要求度が高いそうです。

 そうした植物が自生できているということが、水槽内環境の質のバロメーターになります。「シダはバロメーター中のバロメーター」と覚えて、そうした視点で見るとまた違ってくるでしょう。生息地と同じ植物が生えていることで、生息地と同じ条件にも近づけます。

 逆に、基準を動物さんにしてしまうと、動物さんは体力がある上にガマンしてしまうので、劣悪な環境になってしまう恐れがあるそうです。

 さらに、植物は床材に空気を供給し、栄養を吸い取ってきれいにしてくれる効果もあります。

​ こうした環境づくりの結果、掃除をしないでも分解されてきれいだったり、動物さんたちが水槽内で自然繫殖するなど、「小さな生息地」の再現となっているお宅もあります。

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 雨と排水★これまた必須の重要ポイントです。

 写真のように直接実施する方式と、降雨装置を設置する方式で、その動物さんにとって必要な雨を日々再現しています。

 写真はセンターラボ(「は虫類・両生類館」を入った正面)のヤドクガエルさん宅。雨が降り始めると、ヤドクガエルさんが鳴き始めます。そしてその鳴き声は他のヤドクガエルさんたちにも広がっていきます。生息地でもこんなふうに鳴きかわしているのかな?と、想いが馳せられる経験でした。

​ 雨という水分を入れるからには排水も重要ですが、本田さんは手作業で水槽に穴をあけて設置しています。この穴あけ作業だけ苦手だそうで、ヒビの入った水槽も多く(一番奥など)、本田さんの人間らしさと言いますか、最初から神レベルだったわけではなく努力の継続でここまでの人材になったということが感じられるエピソードでした。

 ツギオミカドヤモリさん宅は、降雨装置(屋根の上の管)で雨が降ります。雨季を再現する際には、1日4回、長いと10分間の降雨があります。

​ 降雨の配管は、位置が変えられるように、長くて曲げられるようになっています。

 こうした装置に関しても、本田さんは必要な知識と技術とつながり(専門家との前向きな関係性)を十二分に持っている上に、常にアップデートの努力をされています。

 施設や装置は、修理・劣化・停電・経費などを考え、シンプルさが大事とのこと。特に配管はローテクなほうが自分で修理ができていいそうです。降雨装置も、水道ひとつで40ヶ所行ける構造にしてあります。水は、途中で浄水器を通りますが、そのフィルターは5千円程度でよいとのことです。

 高級で凝っていることで、自力で直せず経費もかかるより、ローテクで安くても動物福祉向上に関して最大限の効果を発揮する。そうした知識と実績に関してはもはや歩くウィキペディア状態の本田さんから、学ぶことは多いと思います。

 「は虫類・両生類館」のバックヤードでよく見かける装置です。停電になっても動物さんたちを守れるよう、乾電池で降雨装置など様々な装置を動かしています。

 本気で考えて作った施設・設備とは、こういうことだと思います。

​ この「は虫類・両生類館」を建て直したとき、大学の先生と組んで設計しました。その際に、シンプルにしてもらったとのこと。さらに、専門家とのつながりを継続していることで、できる取り組みだそうです。

 ちなみに写真は降雨装置の配管ですが、配管はすべて本田さんが交換できるよう、シンプルにしてあります。

 日照時間もタイマーで管理していて、これまでに2回壊れましたが本田さんが部品交換で修理できたそうです。

 修理のために業者を待ったり経費をかける必要がないということは、動物さんのためにも運営のためにも大事なことです。

 施設★「は虫類・両生類館」です。建て替え時に本田さんが専門家と本気で取り組み、様々な有効策が施されています。

 例えば、建物自体が二重に魔法瓶構造になっていて、停電があっても2週間は温度が保たれ、動物さんたちの命を守ることができます。

 こうした工夫は、室内環境が洗練されているヨーロッパの園館に視察に行って学んだそうです。本田さんの、国内外で学び続ける姿勢も、見習いたいポイントです。

 本田さん曰く「動物宅の新設が一番度量が試されるが、日頃から考えて勉強していないと対応できない」とのこと。飼育員さんは努力項目が多くて大変ですが、応援したいところです。

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 館内の様子。各動物宅が非常に狭いですが、これは行政上の流れによるもので、本田さんはもちろんもっと広いお宅を望んでいます。

 実際、ミズオオトカゲさんは体が大きいので、こうした空間では福祉的に無理と判断し、増やさず他園館に出す方針です。

 また、広いお宅にするには設計からきちんと取り組む必要があるそうで、本田さんはますますの勉強に励んでいます。

​ そうした事情を知らずに現場を見ますと、全動物宅の狭さが衝撃的で、私は何年間も本田さんを「こういう状況が平気な人なんだ」と誤解していました。状況を知らずに判断する怖さを学んだ現場でもあります。来園者の皆さんはぜひ、「狭いけど生息地に近い環境なんだね」と安心して、動物さんと会ってください。そしてさらなる建て替えを応援してください。本田さんの設計と札幌市の気合いをもって作れば、世界最高峰の施設が実現すると思います。

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 温度★なんせ動物さんが毎日・一生過ごす空間ですので、快適さの追求が心身の健康に直結します。

 暑い場所だけ・寒い場所だけという状況では、病気になったり寿命も縮むことでしょう。

 本田さんが手掛ける動物宅は、「温度勾配」と言ってさまざまな温度の居場所が用意してあります。

​ 写真のサイイグアナさん宅も、複数の温度から自分で選べる環境になっています。ちなみに今いる場所は暖かく、右に行くほど涼しいです。

 ライトとパネルヒーターでいろんな温度を用意します。全体の気温は同じですが(コントロールしていますが)、ライトを変えることで温度勾配を作っています。

​ さらにライトと言えば、両生類爬虫類さんには紫外線ライトが絶対に必要です。他の園館でも取り組みが進むよう、各動物さんの紫外線必要量を把握しているところです。

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 暖房★エアコンの温風は動物さんに良くないので、パネルヒーターによる「熱の放射」がオススメとのこと(写真)。冷水を流すタイプもあり、すごく良いそうです(冷やすほうは北海道では不要なので暖房だけですが)。

 本田さんは、空気の温度ではなく、壁や動物さんの「表面温度」を気にします。

 もちろん気温をないがしろにしている訳ではなく、各動物宅の最低・最高気温を設定&メモ。産卵につながっているかなどを確認しています。経験から知ってはいるのですが、自然界での生態が推測できるので、取り組んでいます。

​ また、夜と昼の気温とその動きまでコントロールしているからこそ、それを判断材料にして動物さんの状態を把握できます。何かあった時の因果関係も推測できるそうです。

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 外気の活用★「ドア1枚開けたら環境が変えられることも大事」とのこと。本田さんはそこまで考えて設計に参加していますし、ドア1枚のことまで把握しています。

​ 写真はバックヤードで、左手前の黒いのは動物宅です。室温がダイレクトに動物宅に影響する状況です。人の肌感覚も駆使して、室温を下げたい時はドアを開けます。

​ また、空気の出し入れスイッチも設置されています。パネルヒーターで12度くらいに調整し、そこに涼しい外気をゆるく入れてコントロールします。

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​ 食べ物★動物さんの心身の健康と福祉向上を大きく左右する要素です。

 写真は、両生類爬虫類さんたちの食べ物となるコオロギさんたちです。たいがいの園館は購入するのですが、それだと必要な量とサイズが用意できないそうです。また冷凍だと動物さんたちの調子が悪いことも。

 ということで円山動物園では、自分たちで育てています。こうすることで、様々なサイズが用意できることが一番大きいそうです。極小サイズしか食べられない両生類爬虫類さんもいるので。さらにコオロギさんの栄養を強化してから使います(カルシウムとビタミン)。ネズミさんも同様に現場で育てる努力をしています。

 コオロギさんとネズミさんを育てる手間は、1日数時間にも及びますが、動物専門員さんが1人、集中的に取り組んでいます(現在は宮原さんがばっちり実践中)。

 責任は重大で、きちんとケアしないとバランスが崩れて全部ダメになることもあるそうです。なので若い動物専門員さんはまずここを担当します。匂いも手間もあるここでの仕事を適当にやるような人は、チームから外すとのこと。若い動物専門員さんには、「まず全てのことを他の人以上にできるようになってから、自分のやりたいことをする」という意識を持ってほしいそうです。本田さんのもとで基礎から最高レベルの意識と知識と技術まで学べる動物専門員さんは幸運だと思います。

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 コオロギさんの育成は大変で取り組む園館が少ないので、代替品としてミールワームさん(写真)を研究中。保全のすそ野を広げるためにも、「絶対に動物さんの健康を害さない中でのシンプル化が必要!」という本田さんの想いです。

 ミールワームさんは脂肪のみ・リンが多い・カルシウムが少ない、つまり栄養がないのですが、消化率がとてもよいので、栄養強化をすれば活用できるそうです。

 さらにミールワームさんは嗜好性も高くて使い勝手がいいのですが、注意が必要。例えば、コウモリさんは地域の動物さんでもあり保全が必要なのですが、園館では長生きせず、その要因のひとつが「ミールワームさんだけ」という単食。海外の例を調べると、「ガさんの幼虫を育てて羽化したガさんを食べられるようにする」と、長生きするそうです。

 また、ハチミツガさんの幼虫にも挑戦中。カナヘビさんが食べているのを見たので試したところ嗜好性が強いので、たまには良さそうとのこと。「ブドウ虫(ハニーワーム)」として釣り用に販売されてもいますが、高価だそうです。

 さらに、レッドローチさんは育成が楽なので挑戦中ですが、足が速くて逃げると大変というハードルがあります。

​ このように、決して現状に満足せず、「何かもっといい方法はないか」と追求し続けることが、飼育員さん(動物専門員さん)には必要です。本当に大変な専門職なのです。

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 両生類爬虫類さんの食べ物はさらに果物もあります。ちなみにメニューはあってないようなものだそうです。

​ 動物さんという命を相手にしている仕事ですので、「ルーティンワークはない」とのことです。

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 ケア★ミナミインドハコスッポンさんを洗っています。苔の根が甲羅に入ってしまうので、「カメさんは洗うべし」だそうです。洗うだけで、病気が防げます。

 苔や藻がすべてダメなわけではなく、一見汚れて見える水の、汚れの由来が大事とのこと。グリーンウォーター(有益雑菌水)のように、藻が生えているほうが安定するものもあります。また、本田さんのところのヤドクガエルさん宅では、水槽の内側の藻は有益だそうです。

 こうした判断ができるだけの知識と経験を持った上で、様々なケアを実践しています。

 ここまで、両生類爬虫類さんの福祉向上の取り組み(円山動物園)を大まかにご紹介しましたが、いかがでしょうか?もし自分が両生類爬虫類さんで園館で暮らさねばならないとしたら、ここを選びたいと私は思います。

★構成(全15ページ)

1~4両生類爬虫類さん・5猛禽類さん・6オランウータンさん・7~14アジアゾウさん・15サポートクラブで幸せ共有体験

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