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ZOO AQUA STORY☆ by つまき♪
第27回 札幌市円山動物園 「本気のこれまでとこれから
⑬アジアゾウさんの福祉向上の取り組み・7「ハズバンダリー・トレーニング」♪
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 ゾウさんのケアやトレーニングをする部屋です。これまでに紹介した室内の2部屋の間にあります。複雑な構造物は「PCウォール」と言い、「protected contact wall」の略です。ゾウさんも人も守られた状況でケアをします。

 PCウォール越しに間接的に接触し、人がゾウさんと同じ空間に入ることは決してない、準間接飼育という手法です。あくまで例えばですが、万が一ゾウさんに暴力をふるう人がいた場合、ゾウさんはその人に近づかないという選択ができます。

 ケアの例としては、下部から足先を出して、足の裏や爪のケアをしたり。そうしたことが可能になるハズバンダリートレーニング(ハズトレ)も、ここで行います。ちなみにシーシュくんはハズトレが大好きだそうです(そして人も大好き)。人間の健康診断と同じことを動物さんに協力してもらって行うためのトレーニングです(強制したり麻酔を使ったりせずに行う)。

 ゾウさん担当チームは全員熱いですが、リーダーの小林さん(右)と野村さんも本当に熱心で、自分で考え・勉強し・行動し・仲間と協働するということができる素敵な動物専門員さんです。

 さらに、ゾウさんチームの皆さんは、「円山動物園から、ゾウさんのケアの非暴力化を広めて行きたい!」という熱い想いをお持ちです。心底大賛成ですし、全力で応援させて頂きたいです♪

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 足のケア。特に大型動物さんは、その体重を支える足が命です。写真はパールさん。

<ケア例>

・水洗いをして汚れや挟まった小石などを除去

・ツメを削る

・触って状態を確かめる

・ケガなどをした場合は治療する(薬を塗ったり)

​ 動物専門員さんが持っている棒は、暴力用では決してなく、「ここに足を出してね♪」とゾウさんに伝えるための「ターゲット棒」です。

​ 前方にいる人が動物さんに強化子を渡して前向きに楽しく集中してもらっている間に、対象部位の近くにいる人がケアなどを行います。

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​ ハズトレで使用する「強化子」です。ゾウさんが合図通りに行動してくれた時に渡す、感謝を込めた報酬です(分かりやすく「ごほうび」と言うと上から目線で正しい感じがしません)。動物さんと人をつなぐ、大事なアイテムのひとつです。

​ ちなみにゾウさんたちはリンゴよりオレンジが好きだそうです。オレンジを輪切りにすることで、投入した際に床に張り付いて止まります。転がらずゾウさんが取りやすいです。

​ 半円形の白い容器は、動物専門員さんが腰に付けている袋にハマるようになっていて、カラになったらすぐに交換できます。ちなみに腰の袋は、チェスター動物園からの贈り物だそうです。

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 パールさんの尾に触るハズトレ中。万が一ケガをした場合の治療に備えての、練習です。

 パールさんは、ハズトレを10分行なってもへっちゃらで、ゾウさんに関する世界的コンサルタントのアランさんもびっくりのいい子さんだそうです。

 他のゾウさんたちも、そして動物専門員さんたちも、ハズトレの進展ぶりが超優秀で、これまたアランさんが驚いておられるとのこと。

 ハズトレは、動物さんが合図通りに動いてくれた時に、ホイッスルを吹いて「そうだよ、それだよ♪」を伝えることも多いですが、ゾウさんは人の言葉がよく分かるということで(by アランさん)、ボイスサインで行なっています。

​ 写真のハズトレの、動画は↓です(動画1)。

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 ゾウさんは耳から採血をするので、そのハズトレです(パールさん)。採血によるデータの蓄積が、異常の感知などに役立ちます。

 耳に触る・消毒薬で拭く(写真)・注射針を刺す・血を抜く・止血する・・・といった一連の行動ひとつずつに、慣れてもらいます。

・消毒薬で拭くハズトレの動画は↓(動画2)

​・注射針を刺すために、尖ったものの刺激に慣れてもらうハズトレの動画は↓(動画3)

 動物専門員さんの口調にも注目して下さい。ゾウさんに対して決してエバらず、ゾウさんが前向きな気持ちでハズトレに取り組めるように、明るい口調で褒めています。

 動物さんの一番近くに毎日・一生いる人間の態度・口調・発する空気などが明るく優しいものであり、決して暗かったり攻撃的だったりエバったりしていないことは、動物福祉の根幹を左右する、必須の重大事項です。

 ハズトレは1名ずつ行なうため、ゾウさんたちの安全な交代もハズトレで形にしています。

 写真のように、ドアから離れた部屋のはじっこで待機してもらっている間に、ドアの開閉を行います。万が一にもゾウさんがドアに挟まれないためです。

 ドアも特大サイズのため、開閉時に音がします。その音に慣れてもらうハズトレも行ないました。

 パールさんのハズトレが終わって運動場に帰ると、交代でシュティンさんとニャインちゃんの親子が入ってきます。

 足取りも軽くウキウキと入ってくる様子から、ハズトレを前向きに捉えていることが分かります(その動画4は↓。筆者のウキウキ声つき・笑)。

 6歳でまだ小さいニャインちゃんも、ハズトレができるので、足のケアもばっちりです(動画5は↓)。

 ニャインちゃんは、足の状態を確認するために触るハズトレも既にばっちり。

​ そして、モモの裏側のたぷたぷ具合がたまりません♪

 最後にシュティン母さんです。すでに運動場に帰ったニャインちゃんが、パールさんと遊ぶのが楽しいのか、かなり大きな声を出していましたが、全く動じていませんでした。

 また、動物専門員さんだけでなくいろんな人間がケアに関われたり、いろんな人間の存在に慣れる(=ストレスに感じない)ほうが、福祉向上につながります。

 ですので例えば取材で現場にいる筆者のような「知らない人」にも動じないハズトレも行っています。ということで、筆者もハズトレの練習役としてゾウさんの足に触らせて頂きましたが、全く動じておらず、さすがでした。

 全員が自分の役割を理解して素早く動くので、ゾウさんが待たされることはありません。

 ハズトレ後は、すぐにミーティングをして「振り返り」をします。進捗状況や改善点が共有できます。

​ このミーティングの時間は、動物専門員さんたちが水分補給をする大事な時間にもなっています。

 閉園後、さらにハズトレを行って、シュティン母さんに目薬をさしました。

 目に液体を入れることを許容してもらうのはハードルが高そうですが、ひとつずつ段階を踏んで形作るのがハズトレです。手間は多いですが、動物さんにも動物専門員さんにも、安心安全な手法なのです。

 また、そうした丁寧な行動形成に前向きに取り組むことで、動物さんとの関係も深くなるという、大きな利点もあるそうです(ハズトレは決して動物さんを叱ったり怒鳴ったり暴力を振るったりせず、明るく優しく向き合います。動物さんが自分の意思で参加・行動したくなることを基盤としています)。

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